背景
1. フレイルとオーラルフレイル
超高齢社会の日本では高齢者のフレイル、サルコペニアが問題となっています。フレイル、サルコペニアは様々な疾患の予後予測因子であり、健康寿命延伸のための重要な介入ポイントです。フレイルは多面的かつ複数の構成要素があり、それらは負の連鎖(フレイルサイクル)を形成しています(図1)。低栄養がサルコペニアを来し、それは筋力低下、身体機能低下、エネルギー消費量の低下をもたらし、その結果さらに食欲低下を来すという概念ですが、そのサイクルの上流に口腔機能の低下があると考えられるようになりました(文献1)。
口腔機能の低下はオーラルフレイルとも呼ばれます。オーラルフレイルは、加齢に伴う口腔リテラシーの低下、口腔環境(歯数など)、および口腔機能の変化、さらに社会的、精神的、身体的な予備能力低下も重なり、口腔機能障害に対する脆弱性が増加した状態と考えられています。一般高齢者を対象にした研究では、口腔機能低下、歯周病の有無、残存歯数などが栄養状態、身体機能と負の相関を示すことが知られています(図2)。オーラルフレイルを放置すると摂食機能の障害や心身の機能低下をもたらし、全身的なフレイルを惹起すると考えられます。
2. 心血管疾患とオーラルフレイル
心血管疾患患者のフレイル有症率は一般住民より高率です。また、心血管疾患とオーラルフレイル、デンタルヘルスとの関連は以前から指摘されています。心血管疾患患者は一般住民より多く歯科疾患を有すると言われ、また、歯科疾患や口腔機能低下は動脈硬化症(文献2、3)をはじめとする心血管疾患を発症、増悪させるとの報告があります。その機序として、①齲歯、歯周病などの慢性炎症が血管内皮障害を惹起したり、感染性心内膜炎や術後肺炎の原因となったりすること、②オーラルフレイルにより嚥下困難や摂食不良がもたらされ、低栄養や創傷治癒の遅延をもたらすこと、などが考えられています。
3.医科歯科連携によるフレイル、オーラルフレイル予防
フレイルが心血管疾患患者の生命予後を悪化させるため、フレイルサイクルを進めさせないためにもオーラルフレイル、デンタルヘルスへの介入が重要です。循環器領域の医科スタッフと、口腔領域の歯科スタッフがともにその重要性を知り、連携、協力し、社会全体でのオーラルフレイル、フレイル予防を推進していくことが望まれます。
(文献)
- Tôrres LHDN, Tellez M, Hilgert JB, Hugo FN, de Sousa MD, Ismail AI. Frailty, Frailty Components, and Oral Health: A Systematic Review. J Am Geriatr Soc. 2015 Dec;63(12):2555-2562.
- Tonetti MS, Van Dyke TE; working group of the joint EFP/AAP workshop. Periodontitis and atherosclerotic cardiovascular disease: consensus report of the Joint EFP/AAPWorkshop on Periodontitis and Systemic Diseases. J Periodontol. 2013 Apr;84 Suppl 4S:S24-S29.
- Lockhart PB, et al. Periodontal disease and atherosclerotic vascular disease: does the evidence support an independent association?: a scientific statement from the American Heart Association. Circulation. 2012 May 22;125(20):2520-44.
目的
- 心血管疾患患者に対するフレイル・オーラルフレイル疾病管理プログラムを、医科歯科連携を主軸とした多職種で作成します
- 医師、歯科医師、歯科衛生士、看護師、管理栄養士などが参加する多職種チームにより、医療スタッフと患者様の教育プログラムを立案、実践し、フレイルとオーラルフレイルの啓蒙活動を行います
- プログラムを通じて地域の医療施設間の医療連携を行い、患者様の健康増進、心血管疾患予防を推進します
プロジェクト
- 医科歯科医療者のための教育講演プログラム
- 医療者向け教育コンテンツの作成
- 患者様向け教育コンテンツの作成
- 医科歯科医療連携の推進